一番描きやすい顔の向きの話
2017/01/04

一番描きやすい顔の向きの話
絵を描くことが好きな人たちが特に描きたいモチーフの一つ。「顔」の描き方についてちょっとお話します。
「人の顏を描いてみたいけど、難しい。なんか不自然で、リアルに描けない。かっこよくない。バランスが悪い。」などなど、いざ描いてみるとなかなかうまく描けないという人もいるかと思います。
確かに人の顏は、人と話をするとき、顏を洗うとき、歯を磨く時、風呂に入るときと、よく目にするものだけに微妙な不自然さも敏感に感じる難しいモチーフであることは確かです。
もちろん技術はそう簡単に上がらないかもしれませんが、顔を描く際一番描きやすい向きというのはあります。ではどちらを向いた顔が一番簡単に描けるでしょうか?
描きやすい顔の向きは横顔!
描きやすい顔の向き。結論を申しましょう。
ズバリ!横顔です。
理由を考えてみると分かると思いますが、顔を正面から描く場合、眉毛、目、鼻の穴、耳、輪郭共に2つづつで、正中線を境に、顏の各パーツで左右のバランスを取る必要があります。
しかも人の顏は左右のバランスは同じではありませんので、まったく同じに描いてしまうとそれはそれで不自然。
そこに表情や、作品的なメッセージを描きこむ…となると考えただけでも大変そうな雰囲気です。
横顔ならどうでしょう。当然と言えば当然ですが、顔の各パーツが1つづつしか描く必要がありません。したがって左右のバランスを見る必要もないですよね。
過去の作例
説明したように横顔は比較的簡単なんです。そして顏の正面は難しい。
ここまでは説明した通りですが、ではそれを踏まえて過去の作品を観てみましょう。
アルタミラ洞窟壁画
こちらは人ではなく動物が主ですが、どれも横からの姿ばかりですよね。
人が記号としての物を把握する際、横からとらえるということが、自然なのだと感じます。
この時代、そもそも正面から描くという発想もまだなかったのかもしれません。
エジプト美術 横顔だけ

エジプト壁画 レクミラ墓
こちらも有名でよく目にする図像です。人の体は正面でも、顔は横を向いています。
体に関しては正面と横を向いているものがありますので、正面性についての認識はあったのでしょうが、絵で顏を正面から描くことはまだ難しかったのでしょう。
確か、顔を正面から描いたものもあったように記憶していますが、横顔とは違い、どこかぎこちない印象でした。
浮世絵
太田記念美術館公式サイトより画像引用
日本の浮世絵の場合は、正面から描いたものは無いわけではないですが、少ないです。
浮世絵の正面顔はどちらかと言うとトリッキーな表現に感じます。
ジャコメッティは正面を描き続けた。
神奈川県立近代美術館公式サイトより画像引用
そして最後に紹介するのはジャコメッティ。
この人は、逆に正面顔を描きつづけた人です。
友人矢内原伊作の書いた本を読むとよくわかるのですが、人物を正面から描くことで、徹底的に空間表現を突き詰めようとした人です。
矢内原伊作の「ジャコメッティ」を読むと、いかに正面から描くことの難しさに気付くとともに、終わりのない探求に舌を巻く思いがします。
この本は作者矢内原伊作が、ジャコメッティの家で、長期にわたてモデルをし、日々同じアトリエで作品に向かっていく中で、記録された、いわばジャコメッティの超リアルドキュメンタリーです。
彼の思想、人となりが作者の実感を伴って書かれているため、映像のドキュメンタリーよりも、ジャコメッティの息吹を感じられる貴重な本です。また本自体も読みやすく、これはおすすめの一冊です。
このように顔の向きを変えるだけで、難易度は全然変わります。
一度こだわりを捨てて、いろんな方向から、自分の描きやすい向きを探ってみましょう。
そこを入り口として、人物表現の楽しさに気付いてもらえればと思います。
ではまた次回!